
梅澤 幻(ベクターデザイン代表取締役)
学生時代に美容師の出張サービスを仲間と起業。FC展開後、クリエイティブとテクノロジーを融合した課題解決を提供する株式会社ベクターデザインを設立。ICTとサイバーセキュリティを専業とし30年目。近年は新しい働き方を模索するライブオフィス事業を手掛ける。
Q:生成AIによる世の中の変化をどう感じていますか?
梅澤:久々に“黎明期”が来たなという感覚です。MacでDTPを始めたころのようなワクワク感を再び味わっています。つい先日、「AIでコードが書けるから、システム屋は食い上げになって大変だね」と言われて笑ってしまって。食い上げどころか、AI活用のご意見番のような仕事が増えています。忙しいのは変わらずですが、仕事の質はガラッと変わりました。
AIをめぐる反応は二極化しています。未来志向でAIを楽しく使っていくタイプと、AIを使って既存業務の負荷をいかに下げるかに集中してしまうタイプ。後者の方々の考え方を、楽しむ側のほうへ変えていく──啓蒙というと大げさですが、そういう話しや仕事をすることが増えました。
昨年の年明けから仲間が加わり、最近また新たなメンバーと一緒に仕事をしています。その人たちと共にAIをどう楽しく使うかを話すなかで仕事も楽しくなってきていて。楽しいものだから体が動くし、提案も通るし、仕事も取れる。楽しさが生む好循環を身を以て経験しています。
Q:AI活用の難しさは、どのようなところにあるのでしょうか。
梅澤:「AIは期待外れだった」という声も一時期はありましたが、「バージョンが上がれば万人が使えるようになる」と思い込んだ人の期待が外れただけで、使いこなすには機転が必要となる状況は変わっていません。
例えばドローンだと、その状況はもっと顕著ですね。今のDJIのドローンは音声やジェスチャーで動かせるようになり、もはや空中カメラとして完成形に近くなっています。ここまで簡単に何でも撮れるようになると、ドローンを使うことは本質ではなく、大事なのは「何を撮りたいか」になります。生成AIもその兆候があり、その途上にあるということです。
ちょっと前までは「生成AIなんて使えない」と言っていた人に先月会ったら、生成AIで企画書を書いて、しかも複数のAIを組み合わせるところまで自力でたどり着いていました。AIを使いこなせる人は、「AIを使うこと自体が目的」なのか、それとも「目的を達成する手段がAI」かという違いを理解しているんだと思います。
言いかえれば、手段を売っている人には敵に見え、目的を持っている人には問題なく受け入れられるのが生成AIだと思っています。この構図はどの業界でも同じだと感じています。
Q:ベクターデザインのビジネスでも、AIの活用領域は広がっていますか?
梅澤:社会課題の解決の一つとして、保育の現場に取り組んでいます。きっかけは、富山で「&hoiku」をベクターデザインと共に運営する高野さんとの仕事でした。保育士の仕事で時間が掛かるのが、保育日誌などの記録作業の負担なんですね。複数の子どもを同時に見ながら、求められる粒度で記録を書くのは現実的に困難です。できないことを求めて、できなかったら責任を問う──そういう構造が現場で働く人たちを追い詰めてしまっている現状があります。
そこでベクターデザインでは、カメラの映像からAIが保育日誌を自動生成し、保育士がチェックして、さらに看護師がコメントを加えて、保護者にLINEで届けるという仕組みを作っています。保育士にとっては作業負担が減り、子どもにとっての安全にもつながり、親も安心できる、保育に関わる皆にメリットがある形を構築しようとしています。
Q:経営者としての役割や立ち位置は変化しましたか?
梅澤:それは、いままさに模索中です。今年の頭に、現場からは離れた仕事に注力しようとしたんです。ところが、現場の引力はめちゃくちゃ強大でした。私自身、現場にいたほうが楽しいのもあって、結局引っ張られてしまう。相性の問題もあるんでしょうけど。
伝聞で聞いた話、文章で読んだ情報、AIが解析した後のデータ──そういう生データではないものばかりに触れているとダメですね。生データに触れられる現場に自分の身を沈めてみて、その時に感じた「なんだろう、これ」という疑問を大事にしたほうがいいと感じています。
Q:AIが当たり前になった時代、ベクターデザインはどう変わっていくのでしょうか。
梅澤:エンジニアやクリエイター、アーティストの仲間と、AIや関連技術の活用についてゆるく議論し合う「AI談義」を定期的に行っています。その中で「AIにできないこと」を書き出していったことがあるんです。適応する、意思決定する、評価する、責任を担う、謝罪する…それを並べてみたら、全部、人間が本来やるべきことだったんですね。AIに仕事を奪われるのではなく、AIがあることで人間の本分に立ち戻れる。新しいAIサービス「Qumowill AI」のブランドタグラインに「ヒトが人らしく働くために」と掲げたのは、その実感からです。
「少数精鋭であること」と「物量があること」のバランスが変わる瞬間に立ち会っています。今まで100人でやっていたことを、AIエージェントが代替できるようになった反面、競争は一段と厳しくなっています。だからこそ、人間自身がエキスパートであり、クリエイティブであることが求められるだろうと思っていて、それに備えるために今AIで武装しよう、ツールを使いこなそうとしているわけです。
ある老舗企業の社長がこんなことを言っていました。「老舗であろうとするには、革新的でないとだめだ」「変わらないと思われているその存在こそがブランドの根源だ」と。変わらぬ伝統の味と思われているけれど失敗を繰り返した末の味であって、味は変わっているんだそうです。あるのは“老舗イズム”なんですよね。
AIのおかげで余計なことを削ぎ落とせるからこそ、本質的なオリジナリティや、人間の存在、キャラクターの存在が、むしろ見えやすくなるのではないかと思い始めています。
Q:ベクターデザインが変化を続けていくために必要なものは、何でしょうか。
梅澤:方々に手を広げすぎた反省もあって、変わり続けるためにはどうするかということを最近ずっと考えています。木原さんと話していたら要素が3つあるところまでは言語化できました。仲間がいること、モチベーションがあること、そして経済性があること。この3つが揃えば継続はできます。
ただ、もう1つ何かありそうなんですよ。何かがありそうなんだけれど、それが何かは分からない。「なんだろうね」と言って笑っていました。特定できていないので、あえて言語化しないでおこうと思っています。
人やタイミングによって変わるものでしょうし、永劫に不変のものではない気もするので。ひょっとしたら、その4つ目は、この私のプロフィールを読んでいる人かもしれない。「あと1つは何なんだ」と思って、面白がって来てくれる人がいたら、それがまさに新たなことを始めたり続けたりする4つ目の要素になるわけですから。
一人でできることは、そんなに多くありません。だからこそ、プロフェッショナルな仲間と一緒に変わり続け、新しい労働の形を作っていくこと。それが、今の私のテーマです。
取材編集/常山 剛
photographs by Tomohide Ikeya.
